妄想/連想/暴走――激走する脳内モルヒネの意想。 変態ハードボイルド小説作家の有相無相――
酒井しのぶの作品紹介
【ファッキン・シスターズ・クライスト】
酒好きで女好きで自堕落で格好つけの片桐有二は、二十五年まえに体験したレイプ事件のトラウマに悩まされる、ハードボイルドを気取った私立探偵。ある依頼がもとで、変態性癖が巻き起こす事件に首を突っ込むことになってしまう。高飛車で自分勝手なふしだら女の酒井しのぶと共に、事件の真相を探りだすのだが……推理あり、シリアスありの、本格ハードボイルド長編小説。
![](https://blog.cnobi.jp/v1/blog/user/b8eafacedab90e882efc28425b82a3db/1268133120)
【あいつとの電話】
ツンデレコンビのしのぶと有二。小説のなかだけじゃなく、普段の会話も超ツンデレ&超下品でちょっぴりエッチ!
酒井しのぶの小説に登場する二人が織り成す、会話のみの超ショートショート作品集です。一話読みきりなので、お気軽に読んでいただければと思います。
【Shinobu to Yuji 短編集】
長編ファッキン・シスターズ・クライストの外伝的一話読みきり短編作品集。笑い、切ない過去、素直じゃない愛情、そしてお決まりのエッチな会話。しのぶと有二のツンデレコンビは、殺人事件がなくても面白い。
![](https://blog.cnobi.jp/v1/blog/user/b8eafacedab90e882efc28425b82a3db/1268133068)
(注: すべての作品がR15指定です。作品の性格上、性描写、暴力描写、差別的発言などが各所に出てきます。不快に思う人は読まないでください)
酒好きで女好きで自堕落で格好つけの片桐有二は、二十五年まえに体験したレイプ事件のトラウマに悩まされる、ハードボイルドを気取った私立探偵。ある依頼がもとで、変態性癖が巻き起こす事件に首を突っ込むことになってしまう。高飛車で自分勝手なふしだら女の酒井しのぶと共に、事件の真相を探りだすのだが……推理あり、シリアスありの、本格ハードボイルド長編小説。
【あいつとの電話】
ツンデレコンビのしのぶと有二。小説のなかだけじゃなく、普段の会話も超ツンデレ&超下品でちょっぴりエッチ!
酒井しのぶの小説に登場する二人が織り成す、会話のみの超ショートショート作品集です。一話読みきりなので、お気軽に読んでいただければと思います。
【Shinobu to Yuji 短編集】
長編ファッキン・シスターズ・クライストの外伝的一話読みきり短編作品集。笑い、切ない過去、素直じゃない愛情、そしてお決まりのエッチな会話。しのぶと有二のツンデレコンビは、殺人事件がなくても面白い。
(注: すべての作品がR15指定です。作品の性格上、性描写、暴力描写、差別的発言などが各所に出てきます。不快に思う人は読まないでください)
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【ボチボチと書き始めています】
いろいろあり、忙しい毎日を過ごしています。
書きたい衝動は日に日に増してくるのですが、なかなか時間が作れず、昔のようにすべてを犠牲にして書く勇気もなく、いまは我慢の時期かなと思う今日この頃。
それでも、書かずにはいられないときもあるので、短いエピソード的なものをチマチマと書いたりしています。
皆様のところへ訪問する時間はまだなかなか作れませんが、毎日少しづつですが、勉強し精進しているところですので、いましばらくお待ちくださいませ。
【ご連絡】
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こんばんは、酒井しのぶでございます。
皆様からたくさんのお見舞いコメントをいただき、とっても感謝感激なわたくしでございます。
おかげさまで、体調はすっかり回復しまして、まだちょっと食べることには不安が残りますが、いつもどおりの生活に戻っております。
ご心配をおかけしてどうもすいませんでした。
さて、今日はちょっと小説ブログらしく、小説の考察をしてみましょう。
今日の題材はハードボイルドです。
ていうか、わざわざ前置きしなくても、常に題材はハードボイルドでしたね。(笑)
今日はレイモンド・チャンドラーが作り出したハードボイルドについて。
チャンドラーが作り出したハードボイルドと言えば、フィリップ・マーロウ以外には存在しないと言ってしまっても過言じゃないでしょう。
ハードボイルドの創始者はダシール・ハメットであり、マルタの鷹のサム・スペードこそが、小説の登場人物としてハードボイルドの元祖であると言うべきなのでしょうが、世の中にハードボイルドを広め普及させたのは、間違いなくフィリップ・マーロウであり、マーロウの性格やスタイルがそれ以降のハードボイルドのスタンダードになっているのは間違いありません。
では、チャンドラーが生み出したフィリップ・マーロウとはいったいどんな人物なのか。
今日はそれを考察してみます。
日本にも数多くのチャンドリアンと呼ばれるチャンドラーオタク、チャンドラーマニアが存在いたしますので、わたくしごときの考察は浅はかなレベルでしょうが、チャンドリアンと呼ぶレベルではないわたくしの考察は、より素人考えであるがゆえに、一般ユーザーに近い見かたができる可能性もあるわけで、あながち無意味な考察ではないと思います。(と、自分勝手な理由付けをしておいてっと。笑)
ハードボイルドをマニアックに研究されている人にとってはつまらない内容になるでしょうから、読む必要はないと思います。
逆に、ハードボイルドに興味があり、いくつかの作品を読んだことがあるといった程度の人ならば、共感できたり、それは違うんじゃないか? などと思えたりするかもしれません。
いずれにせよ、ウンチクなんてくだらねぇぜ!! って人は読まないでくださいね。(笑)
それではさっそくいってみましょうか。
あ、その前に……。
ここから先は、わたくしの妄想が混在しますので、書かれていることをすべて鵜呑みにしないでくださいね。(まぁいつものことですが。笑)
まずは、チャンドラーが描き出したハードボイルド、フィリップ・マーロウがどんな人間か。
フィリップ・マーロウは、地方検事局の捜査官だったのが、命令違反でクビになり私立探偵になった人です。
ご存知の人もいるでしょうが、マーロウが活躍する舞台はロサンジェルス。ロサンジェルスでは(ほかも一緒でしょうが)警察官が地方検事に出世するのが通例で、地方検事局には専属の刑事が抜擢されます。
つまり、地方検事局の捜査官とはエリートであり、有能な刑事ということになるわけです。
ですが、地方検事というのは人気商売な側面もあります。
地方検事を経て市長に立候補したり、州議会の議員になったりというのは、アメリカでは当たり前の出世街道。
刑事訴訟を起こすのは地方検事の役割であり、陪審員制度のあるアメリカでは、地方検事の人気が裁判の行方を大きく左右するのは言うまでもありません。
そのため地方検事は、自分の人気を高めるために、話題性のある事件、確実に有罪にできる事件を選んで、刑事訴訟を起こします。
マーロウが生きた時代(第二次世界大戦前後でしょうか)は、こうしたことが当たり前のように行われていました。
話題を呼び、人気を得て、犯人を有罪にするためだったら、どんな偽装でもしちゃうのが、地方検事です。(ここら辺にわたくしの妄想がかなりあるかも。笑)
逆に話題になりそうにない事件は、適当に扱い適当に解決したり、ほったらかしのままだったりします。
特に、黒人の選挙での投票率はとっても低かった時代ですから、黒人同士の事件は適当に扱われるのが当たり前でした。
また、白人が起こした事件でも、黒人を犯人に仕立て上げ、白人を悪者にしないような工作も当たり前に行われていたのです。
マーロウは命令違反でクビになっているわけですが、こうした正義を歪める権力に対しての命令違反だったのでしょう。
マーロウは、非情というイメージのハードボイルドとはちょっと違いました。
まず、法に触れる仕事はしません。(離婚問題も取り扱いませんが、これはまた違う事情でしょう)
女性には優しく、恋愛沙汰は多いですが、女性を粗末には扱いません。女性だったら誰にでもダーリンだのスィーティだのと言うマルタの鷹のサム・スペードとは違い、プレイボーイな側面はありません。
情に厚い側面もあり、恩のある人物を困らせるような行動はしませんし、逆に犯人に仕立て上げられた友人を信じて、自らを危険にさらしたりもします。
アメリカ人のそれらしく、ジョークが大好きで、真剣な話をしているときでも常に小粋なジョークを言い、ときには相手に嫌悪感を与えるほどです。
パイプをたしなんだり、チェスが好きだったりと、ジェントルマンでインテリジェンスな側面を見せます。(基本的にはタバコで、キャメルを吸いますが、パイプを吸う描写もいくつかの作品で見られます)
脂ぎった顔の人間を毛嫌いしたり、爪が汚れている人間に触られるのを嫌ったり、肩にフケがこびりついてる人間に嫌悪をあらわにしたりと、潔癖っぽいところがあり、上品ぶっていて実はだらしない女性を蔑んで見たりもします。
この潔癖っぽいところは、マーロウの人間的でない機械的な部分を描くのにはとても効果的ですが、行動派で力仕事だらけの私立探偵にはちょっと似つかわしくないと思ったりもします。
さて、マルタの鷹でハメットが描いたハードボイルドとは、どんなものだったのでしょうか。
タフなのは言うまでもありませんが、非情で、自己中心的で、金に目がなく、自分のためなら女でも平気で泣かせ、相棒が死んでも涙ひとつ流さないどころか、死んでくれてよかったぜってな態度をとります。
これがハメットの描いたハードボイルドであり、はっきり言って嫌なやつですが、時代背景と当時の私立探偵事情を考えると、とっても現実的な存在です。
チャンドラーの描いたハードボイルドはちょっと違います。
フィリップ・マーロウは、自分の信念に基づき行動する孤高の騎士のような人物です。
サム・スペードとは違い、正義に準じて行動しており、まれに法を犯すときというのは、法を執行する側に悪意があったり、正義を追行するために必要だったりする限られた場合だけです。
はっきり言って、ぜんぜんリアルじゃありません。
実際あの時代にそんな素敵な私立探偵がいたなんて思えません。
ですが、そこがポイントなのかもしれません。
実際にはいない理想の人物として人気を得たのでしょう。
このフィリップ・マーロウのスタイルと言うのは、言うまでもなくのちのハードボイルド小説の主流スタイルとなります。
ハメットの小説は三人称で書かれているのに対し、チャンドラーの小説は一人称で書かれているせいもあり、マーロウの心情がいたるところで読み取れると言う点でも、人間らしさを感じ取ることができ、マーロウのほうがスペードよりも人気になりやすいのでしょう。
ハードボイルド=フィリップ・マーロウ。
タフガイ=フィリップ・マーロウ。
非情なようで熱いハート。
寡黙なようでユーモアに富んでいる。
安っぽい格好と安っぽい食事。
トレンチコートと中折れ帽。
銃は必要なときしか携帯しない。(つまり無駄な殺人はしない)
などなど、あげればきりがないほど、ほぼすべての現在のハードボイルドのスタイルはハメットではなくチャンドラーが作り出しています。
そうですねぇ、わかりやすいところで例をあげるとしたら……
たとえばルパン三世とか。
たとえば次元大介とか。
たとえば石川五右衛門とか。
(え……ぜんぶルパンじゃんかって? すいません。笑)
紅の豚のマルコとか。
最近だと、銀魂の銀さんとか。
たとえがぜんぶアニメで、しかもかなり偏りがありますが、まぁわかっていただけると思います。(笑)
ところで、チャンドラーは本来のハードボイルドスタイルを別の形に変形させたとして、嫌う人がいたりもします。
たしかに、ハメットが作り出したハードボイルドとはずいぶん変わりました。
チャンドラーの小説は大人気となり、以後のハードボイルド小説に多大な影響を与えてしまい、結果としてハメット流ハードボイルドではない、チャンドラー流ハードボイルドの定義を確立してしまったわけです。
ですが、わたくしは思うのです。
人気になったと言うことは、世間はフィリップ・マーロウの登場を待ち望んでいたのだろうし、マーロウこそハードボイルドだと認めたのだと。
小説と言うのは、ほかのどのクリエイティブなジャンルとも違い、読者がいなければ作品が完成しないという性質を持っています。
つまり、作家はF1で言うところのメカニックであり、読者がドライバーなわけです。
どんなに質の良いエンジンを作り上げたとしても、すべてはドライバーのポテンシャルに委ねられるわけで、小説で言うならばそれは読者の想像力なのだと思うのです。
優れた作品も読者の想像力がなければ、つまらない作品となり、稚拙な作品でも読者のあふれる想像力が無限の世界を作り出す、それが小説です。
チャンドラーのハードボイルドは読者の想像を掻き立てると言う意味で、優れた作品だったのではないでしょうか。
フィリップ・マーロウに関して言えば、どの作品を読んだあとでも、それがたとえたいしたことのない作品だったとしても(実際、チャンドラー作品にはつまらないのもあります)もっとマーロウの活躍が読みたいと思えます。
ですが、マルタの鷹は?
完成度の高さはものすごいものがあり、サム・スペードも魅力あるハードボイルドなわけで、読んだあとの満足感はかなりなものです。
でも、続きが読みたいとか、スペードの活躍をもっと見たいとかにはなりません。
なぜか。
簡単ですね。
スペードはマルタの鷹で完成されてしまっているんです。
おそらく、別のどんな作品をスペードを主人公にして書いても、スペードがどんな行動をし、どんな発言をするのか、わかっちゃうんですよ。
マーロウはそこが違います。
マーロウは人間的に不完全です。不完全だからこそつぎになにをするのかミステリーがあるわけですね。
読者の想像力を刺激する部分がまだ残されている状態で、いつも話が終わって行くんですね。
そしてもうひとつ。
マーロウは正義の人です。
アメリカ人はヒーローが大好きです。
そしてヒーローと言えども人間的なのが好きなんです。
スーパーマンもスパイダーマンも、みんな人間の弱さを抱えています。
非情でタフなスペードにはない、弱さ。
マーロウにはその弱さ、つまり人間らしさがあるんですね。
そんな人間らしいマーロウ。
実際にあの時代にマーロウのような探偵はいなかったでしょうし、いたとしても活躍なんかできず、権力にもみ消されていたに決まっていますが、それでも人はみんなマーロウの存在に憧れたわけです。
遠山の金さんみたいなもんです。
水戸黄門みたいなもんだし、桃太郎侍みたいなもんだし、三匹が斬るみたいなもんで、そして七人の侍みたいなもんなわけですよ。(笑)
とまぁ、チャンドラーが描いたフィリップ・マーロウがなぜ人気になったのか、そんなことを考察してみましたが、もうひとつ、チャンドラーの作品で重要なことがあります。
チャンドラーの作品は、背景描写がとってもすばらしいです。
このチャンドラーが描いた背景描写は、そのすばらしさゆえに、マーロウのハードボイルド像とセットで、ハードボイルドのイメージの一部と化しました。
酒とタバコと埃の匂い。
霧の漂う町並み。
耳を澄ませば聞こえてくるジャズ。
ガス燈が霧にぼやけて薄っすらユラユラと輝く様は、チャンドラーが描き出したハードボイルドの世界の象徴であり、チャンドラーの小説はこれらの優れた描写がなければ完成しないのだと言うことも付け加えて、終わりたいと思います。
今日の「しのぶが思うハードボイルド」
弱さを隠し背伸びをすれば転げ堕ちる。
以上でございます。
それではまた、酒井しのぶでございました。
皆様からたくさんのお見舞いコメントをいただき、とっても感謝感激なわたくしでございます。
おかげさまで、体調はすっかり回復しまして、まだちょっと食べることには不安が残りますが、いつもどおりの生活に戻っております。
ご心配をおかけしてどうもすいませんでした。
さて、今日はちょっと小説ブログらしく、小説の考察をしてみましょう。
今日の題材はハードボイルドです。
ていうか、わざわざ前置きしなくても、常に題材はハードボイルドでしたね。(笑)
今日はレイモンド・チャンドラーが作り出したハードボイルドについて。
チャンドラーが作り出したハードボイルドと言えば、フィリップ・マーロウ以外には存在しないと言ってしまっても過言じゃないでしょう。
ハードボイルドの創始者はダシール・ハメットであり、マルタの鷹のサム・スペードこそが、小説の登場人物としてハードボイルドの元祖であると言うべきなのでしょうが、世の中にハードボイルドを広め普及させたのは、間違いなくフィリップ・マーロウであり、マーロウの性格やスタイルがそれ以降のハードボイルドのスタンダードになっているのは間違いありません。
では、チャンドラーが生み出したフィリップ・マーロウとはいったいどんな人物なのか。
今日はそれを考察してみます。
日本にも数多くのチャンドリアンと呼ばれるチャンドラーオタク、チャンドラーマニアが存在いたしますので、わたくしごときの考察は浅はかなレベルでしょうが、チャンドリアンと呼ぶレベルではないわたくしの考察は、より素人考えであるがゆえに、一般ユーザーに近い見かたができる可能性もあるわけで、あながち無意味な考察ではないと思います。(と、自分勝手な理由付けをしておいてっと。笑)
ハードボイルドをマニアックに研究されている人にとってはつまらない内容になるでしょうから、読む必要はないと思います。
逆に、ハードボイルドに興味があり、いくつかの作品を読んだことがあるといった程度の人ならば、共感できたり、それは違うんじゃないか? などと思えたりするかもしれません。
いずれにせよ、ウンチクなんてくだらねぇぜ!! って人は読まないでくださいね。(笑)
それではさっそくいってみましょうか。
あ、その前に……。
ここから先は、わたくしの妄想が混在しますので、書かれていることをすべて鵜呑みにしないでくださいね。(まぁいつものことですが。笑)
まずは、チャンドラーが描き出したハードボイルド、フィリップ・マーロウがどんな人間か。
フィリップ・マーロウは、地方検事局の捜査官だったのが、命令違反でクビになり私立探偵になった人です。
ご存知の人もいるでしょうが、マーロウが活躍する舞台はロサンジェルス。ロサンジェルスでは(ほかも一緒でしょうが)警察官が地方検事に出世するのが通例で、地方検事局には専属の刑事が抜擢されます。
つまり、地方検事局の捜査官とはエリートであり、有能な刑事ということになるわけです。
ですが、地方検事というのは人気商売な側面もあります。
地方検事を経て市長に立候補したり、州議会の議員になったりというのは、アメリカでは当たり前の出世街道。
刑事訴訟を起こすのは地方検事の役割であり、陪審員制度のあるアメリカでは、地方検事の人気が裁判の行方を大きく左右するのは言うまでもありません。
そのため地方検事は、自分の人気を高めるために、話題性のある事件、確実に有罪にできる事件を選んで、刑事訴訟を起こします。
マーロウが生きた時代(第二次世界大戦前後でしょうか)は、こうしたことが当たり前のように行われていました。
話題を呼び、人気を得て、犯人を有罪にするためだったら、どんな偽装でもしちゃうのが、地方検事です。(ここら辺にわたくしの妄想がかなりあるかも。笑)
逆に話題になりそうにない事件は、適当に扱い適当に解決したり、ほったらかしのままだったりします。
特に、黒人の選挙での投票率はとっても低かった時代ですから、黒人同士の事件は適当に扱われるのが当たり前でした。
また、白人が起こした事件でも、黒人を犯人に仕立て上げ、白人を悪者にしないような工作も当たり前に行われていたのです。
マーロウは命令違反でクビになっているわけですが、こうした正義を歪める権力に対しての命令違反だったのでしょう。
マーロウは、非情というイメージのハードボイルドとはちょっと違いました。
まず、法に触れる仕事はしません。(離婚問題も取り扱いませんが、これはまた違う事情でしょう)
女性には優しく、恋愛沙汰は多いですが、女性を粗末には扱いません。女性だったら誰にでもダーリンだのスィーティだのと言うマルタの鷹のサム・スペードとは違い、プレイボーイな側面はありません。
情に厚い側面もあり、恩のある人物を困らせるような行動はしませんし、逆に犯人に仕立て上げられた友人を信じて、自らを危険にさらしたりもします。
アメリカ人のそれらしく、ジョークが大好きで、真剣な話をしているときでも常に小粋なジョークを言い、ときには相手に嫌悪感を与えるほどです。
パイプをたしなんだり、チェスが好きだったりと、ジェントルマンでインテリジェンスな側面を見せます。(基本的にはタバコで、キャメルを吸いますが、パイプを吸う描写もいくつかの作品で見られます)
脂ぎった顔の人間を毛嫌いしたり、爪が汚れている人間に触られるのを嫌ったり、肩にフケがこびりついてる人間に嫌悪をあらわにしたりと、潔癖っぽいところがあり、上品ぶっていて実はだらしない女性を蔑んで見たりもします。
この潔癖っぽいところは、マーロウの人間的でない機械的な部分を描くのにはとても効果的ですが、行動派で力仕事だらけの私立探偵にはちょっと似つかわしくないと思ったりもします。
さて、マルタの鷹でハメットが描いたハードボイルドとは、どんなものだったのでしょうか。
タフなのは言うまでもありませんが、非情で、自己中心的で、金に目がなく、自分のためなら女でも平気で泣かせ、相棒が死んでも涙ひとつ流さないどころか、死んでくれてよかったぜってな態度をとります。
これがハメットの描いたハードボイルドであり、はっきり言って嫌なやつですが、時代背景と当時の私立探偵事情を考えると、とっても現実的な存在です。
チャンドラーの描いたハードボイルドはちょっと違います。
フィリップ・マーロウは、自分の信念に基づき行動する孤高の騎士のような人物です。
サム・スペードとは違い、正義に準じて行動しており、まれに法を犯すときというのは、法を執行する側に悪意があったり、正義を追行するために必要だったりする限られた場合だけです。
はっきり言って、ぜんぜんリアルじゃありません。
実際あの時代にそんな素敵な私立探偵がいたなんて思えません。
ですが、そこがポイントなのかもしれません。
実際にはいない理想の人物として人気を得たのでしょう。
このフィリップ・マーロウのスタイルと言うのは、言うまでもなくのちのハードボイルド小説の主流スタイルとなります。
ハメットの小説は三人称で書かれているのに対し、チャンドラーの小説は一人称で書かれているせいもあり、マーロウの心情がいたるところで読み取れると言う点でも、人間らしさを感じ取ることができ、マーロウのほうがスペードよりも人気になりやすいのでしょう。
ハードボイルド=フィリップ・マーロウ。
タフガイ=フィリップ・マーロウ。
非情なようで熱いハート。
寡黙なようでユーモアに富んでいる。
安っぽい格好と安っぽい食事。
トレンチコートと中折れ帽。
銃は必要なときしか携帯しない。(つまり無駄な殺人はしない)
などなど、あげればきりがないほど、ほぼすべての現在のハードボイルドのスタイルはハメットではなくチャンドラーが作り出しています。
そうですねぇ、わかりやすいところで例をあげるとしたら……
たとえばルパン三世とか。
たとえば次元大介とか。
たとえば石川五右衛門とか。
(え……ぜんぶルパンじゃんかって? すいません。笑)
紅の豚のマルコとか。
最近だと、銀魂の銀さんとか。
たとえがぜんぶアニメで、しかもかなり偏りがありますが、まぁわかっていただけると思います。(笑)
ところで、チャンドラーは本来のハードボイルドスタイルを別の形に変形させたとして、嫌う人がいたりもします。
たしかに、ハメットが作り出したハードボイルドとはずいぶん変わりました。
チャンドラーの小説は大人気となり、以後のハードボイルド小説に多大な影響を与えてしまい、結果としてハメット流ハードボイルドではない、チャンドラー流ハードボイルドの定義を確立してしまったわけです。
ですが、わたくしは思うのです。
人気になったと言うことは、世間はフィリップ・マーロウの登場を待ち望んでいたのだろうし、マーロウこそハードボイルドだと認めたのだと。
小説と言うのは、ほかのどのクリエイティブなジャンルとも違い、読者がいなければ作品が完成しないという性質を持っています。
つまり、作家はF1で言うところのメカニックであり、読者がドライバーなわけです。
どんなに質の良いエンジンを作り上げたとしても、すべてはドライバーのポテンシャルに委ねられるわけで、小説で言うならばそれは読者の想像力なのだと思うのです。
優れた作品も読者の想像力がなければ、つまらない作品となり、稚拙な作品でも読者のあふれる想像力が無限の世界を作り出す、それが小説です。
チャンドラーのハードボイルドは読者の想像を掻き立てると言う意味で、優れた作品だったのではないでしょうか。
フィリップ・マーロウに関して言えば、どの作品を読んだあとでも、それがたとえたいしたことのない作品だったとしても(実際、チャンドラー作品にはつまらないのもあります)もっとマーロウの活躍が読みたいと思えます。
ですが、マルタの鷹は?
完成度の高さはものすごいものがあり、サム・スペードも魅力あるハードボイルドなわけで、読んだあとの満足感はかなりなものです。
でも、続きが読みたいとか、スペードの活躍をもっと見たいとかにはなりません。
なぜか。
簡単ですね。
スペードはマルタの鷹で完成されてしまっているんです。
おそらく、別のどんな作品をスペードを主人公にして書いても、スペードがどんな行動をし、どんな発言をするのか、わかっちゃうんですよ。
マーロウはそこが違います。
マーロウは人間的に不完全です。不完全だからこそつぎになにをするのかミステリーがあるわけですね。
読者の想像力を刺激する部分がまだ残されている状態で、いつも話が終わって行くんですね。
そしてもうひとつ。
マーロウは正義の人です。
アメリカ人はヒーローが大好きです。
そしてヒーローと言えども人間的なのが好きなんです。
スーパーマンもスパイダーマンも、みんな人間の弱さを抱えています。
非情でタフなスペードにはない、弱さ。
マーロウにはその弱さ、つまり人間らしさがあるんですね。
そんな人間らしいマーロウ。
実際にあの時代にマーロウのような探偵はいなかったでしょうし、いたとしても活躍なんかできず、権力にもみ消されていたに決まっていますが、それでも人はみんなマーロウの存在に憧れたわけです。
遠山の金さんみたいなもんです。
水戸黄門みたいなもんだし、桃太郎侍みたいなもんだし、三匹が斬るみたいなもんで、そして七人の侍みたいなもんなわけですよ。(笑)
とまぁ、チャンドラーが描いたフィリップ・マーロウがなぜ人気になったのか、そんなことを考察してみましたが、もうひとつ、チャンドラーの作品で重要なことがあります。
チャンドラーの作品は、背景描写がとってもすばらしいです。
このチャンドラーが描いた背景描写は、そのすばらしさゆえに、マーロウのハードボイルド像とセットで、ハードボイルドのイメージの一部と化しました。
酒とタバコと埃の匂い。
霧の漂う町並み。
耳を澄ませば聞こえてくるジャズ。
ガス燈が霧にぼやけて薄っすらユラユラと輝く様は、チャンドラーが描き出したハードボイルドの世界の象徴であり、チャンドラーの小説はこれらの優れた描写がなければ完成しないのだと言うことも付け加えて、終わりたいと思います。
今日の「しのぶが思うハードボイルド」
弱さを隠し背伸びをすれば転げ堕ちる。
以上でございます。
それではまた、酒井しのぶでございました。
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